Vol.08
みなさまご無沙汰しております。 パリはすっかり春の気候。今週から待望の屋外の飲食店営業が許可されるため、テラス席を増設するカフェなどで賑わいはじめています。
さて、今回はパリの子どもたちの水泳について。水泳大国のフランスですが、スイミングのお稽古は特別ポピュラーではありません。子どもたちの一般的な水泳レベルは日本の方が遥かに高いように感じられます。
パリ市内の小学校にプールがあることはほぼありませんが、市営のプールを借りて、体育の一環で1年に数ヶ月、水泳の授業があります。担任とボランティアの保護者が移動に付き添い、プールでは、MNS(Maître-Nageur Sauveteur)という専門の資格を持ったコーチが授業をします。
娘のクラスでは初めに『泳ぎ方を知っている』『知らない』の2グループに分けられ、プールサイドで準備運動、泳ぎの型を軽く練習した後、子どもたちだけが水の中へ。初めて見学した時は、コーチは一緒に入らないの?と驚きましたが、グループ毎にいるMNSは海辺のレスキュー隊員のように頼もしく、厳しく目を光らせてくれています。子どもたちはレベルによって浮き具の有無はあるものの、とにかく各自コーチに言われた距離を泳ぎ始めます。
観覧用のバルコニーから見ている限り、その様子はかなり自由でバラバラ。真っ直ぐに対岸に向かう泳ぎの得意な子。皆の間を脇目もふらずに斜めに突き進む子。ほとんど進まずに水しぶきを上げている子。コーチはそれをプールサイドから見ていて、それぞれにアドバイスを送っているようです。そして水中でパニックを起こしかけると、すかさず長い竿のようなものが差し出されます。“藁をもつかむ”といった具合に子供が棒をつかむと、コーチがスルスルとプールサイドまで引き寄せてくれるのです。
泳ぎのフォームや正しい息継ぎの仕方などを指導されている様子はないまま、あっという間に30分ほどの授業は終わります。最終日のテストは、案の定『どんな形でもいいから50m足を着かずに泳ぎ切れるかどうか』。
まずは溺れないようになることが先決なのです!
子どもたちがプールから上がると、保護者も更衣室に向かいます。そこからはしずくを垂らしながら服を着始める子にバスタオルを渡したり、床に散らばる忘れ物予備軍を声を張り上げて配ったり、嵐のようなひととき。準備のできた子から、壁に設置された大きなドライヤーの前に立たせて髪を乾かしていきます。移民国家のフランスでは、子供たちのルーツもいろいろな国に広がっています。細い猫っ毛の金髪、クリクリにカールした赤毛、真っ直ぐな黒髪やおしゃれにビーズを編み込んだアフリカンヘアなど髪質もバリエーション豊か。そんな中、娘のお友だちのママたちからは度々、「日本人の髪はきれいな上に乾きやすくていいわね」と褒めてもらいました。なかなか触れる機会のない個性豊かな髪の毛。
それぞれが美しくかわいくて、私はこの騒がしい時間が嫌いではありません。
※2021年5月現在、新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から、フランス国内ではプールを使用する授業を見合わせています。
Text:Seiko itoh